writing <風のネット>

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<風のネット>

せつないほどの細い糸

つなぎあわせて美しいライン

三角だったり、平行線だったり

君もまた、美しいと言うだろう

すべてを見る事ができるのならば

誰もがほめたたえ、みまもりつづけることだろう

私は蜘蛛の男

私のつくる物は、簡単に見ることはできない

朝露にぬれる明け方の時はべつだ

私だけが、この美しい造形をつくり

私以外の誰もが、ため息をつく

細いラインは光に透け

風にゆれては捕らえるものもなく乱れる

その昔、動物たちが狩りをした

肉を捕らえるために使われていた

そんな時代は昔のこと

この糸は私のためにある

ある朝のこと

私がかけた風のネットに絡め獲られる者がいた

はじめてのことだ

輝く帆布に

しなやかな骨

動くたびに乾いた音できしんだ

糸が彼を、絡め採っている

若く青色をした、空を飛ぶ者だ

飛ぶ者の姿を、見たことはあった

はるか彼方の上空で遊び

舞い上がっては墜落をした

空の青い日には白くまたたき

木の葉よりも軽やかに

鳥の羽毛よりも楽しげに遊んでいた

はるか彼方の出来事で

彼と私との間には、幾重にかさなる 空の層があった

翼をたたみ 目の前にいる

その美しい翼を眺めた

飛ぶ者は、あきらめたように私を見ている

飛ぶ者の身体が音をたてる

大きな翼は邪魔にみえた

私は聞いた

「なぜ、ここにきた」

「風が止んでしまった」

「風とともに生きることは楽しいのか」

「考えたこともない」

翼にからまる糸を引き

傷付けぬよう糸を巻き取っていった

飛ぶ者は自由になり

私に言った

「美しいネットを壊してしまった。すまない」

「きにすることはない。またつくればいい」

「なにか御礼をしたいのだが」

地平線には、白い雲が湧きあがるところだった

上空の風に吹かれ 時機に雨が降るだろう

「飛ぶところを見せてくれないか

私は飛んだことがない

ここで生きてきた

この糸のはしを手に、飛んで見せてはくれないだろうか」

風はなく、どこまでも青い空を見た

翼が広がり、風が起きる

彼は言う

「風のない日に飛ぶのは 久しぶりだ」

おおきな翼が空をつかむ

強い風とともに舞い上がった

彼の姿が遠ざかり、糸が空へと巻かれていく

時間はかからなかった

見る見るうちいに点となり

おそらく彼は上っていた

細い糸はかがやき

空の彼方へのびている

私は糸を送りつづけた

すべての物を巻き取って糸にした

あるだけの糸を 空に流す

すべてが空へと上っていく

空はどこまであるのだろう

翼は風に乗れたのだろうか

いつもの空がのぞいている

すべての糸が空へとのぼっていった今

いつもより空をちかくに感じている

地平線の雲が起き上がり 、ときおり光を放って見せた

重たい音が響いている

夕立が来る

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tadasi tamesue 為季忠嗣 hitoe@no-scooter.com

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