writing <伐採>

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<最後の春> 2002/03/28

幸せがなにと知らないが

進むことはできた

豊かさが必要だった

屋根があり窓があり、暖かい家を必要とした

ドアを閉めれば音もなく、静けさを嫌い、歌を唄う

木の葉をゆらす音がする

緑の森はとても好き

言えないほどに変化に富み

幼い時は夢中だった

黒いダイヤに秘密基地

ゴミをかぶった大人の本

枯れ葉を集めて焚き火をした

いつでも森は新しかった

車を走らせ森に行く

足をとられ腹が立つ

葉が空をおおい、その時々で色がちがう

枝葉に透ける空の色は、雨でも晴れでも他人事に思えた

木の陰が怖く、木の洞は愛しい

シャッターを切る

映るすべてが真実

それが季節

フィルムを三本持っていき、日の暮れるまえ森に入る

ファインダーを覗き、どこを見るにも春に満ちている

切られた株から溢れる水は、血のようだった

見る見るうちに陰となり、シャッター音が遅くなる

濃淡のない風景

最後の写真は木肌となる

フィルムはいくらか残っていた

カメラはフィルムを巻き取っている

いくどか風の音がした

切られそびれた木の葉が鳴り、倒れた枝葉も鳴っていた

夜のまえ私は森をあとにする

おおきく丸い満月が昇る

終わりのないくりかえしの月が、夜の見張りとなるのだろう

写真は現像をされ、もう進むことはない

石になるほど過去ではない

ここが想像できるだろうか

私に命を与えたのは人で、人に心を与えたのは私

今ある姿は仕方がなく、どうする事もできはしない

できる限りで今日がある

明日もそうしていくだろう

死が近い?

皆も同じことだろう

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tadasi tamesue 為季忠嗣 hitoe@no-scooter.com

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