writing <所有者様へ>

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2004年2月、道草を食っていた私は、工務店の人と職人たちの会話を耳にした。その内容は、大木を切り倒すという話だった。これ以上日陰が減っては困ると思い、大木の保護のため反対運動する。手紙を書き、大樹の肌に貼り付けるという古典的な方法である。手紙の内容は以下の文章。大樹は今、春を迎えている。

<所有者様へ> 2003/02/20

この大樹が、この地に相応しくないという理由があるのでしょうか?

 百年の時を越え、小平が農村だった当所から、この樹はこの地で育ってきました。形がより良く保たれるよう、何人もの人々の手で、今の姿になったのです。空に大きく手を伸ばし、夏には茂る美しい樹です。

 この木の下で子供達が育ち、年月の流れの中でこの世を去っていきました。そうした人々の思い出の中にも、この樹は息づいています。樹もまた私たちの事を年輪に刻み、この先の百年を越え生きてゆくでしょう。今日の日も、樹の肌の一部として生きてゆくのです。

 私たちは四季を見て、心を癒し、大樹の恩恵の元に生活をしています。千年を生きる樹と、私たちが分かち合える時は、今というせつなの時間だけなのです。

 今はまだここに、空を被う大樹が立っています。ここにかつてあった百年の時と、この先に続く百年の時に、取り返しのつかぬ別れを前に、どうか思いとどまって頂きたくお手紙を書いています。

 どうしてもこの樹を切るのであれば、80歳を過ぎた御年寄りにどうかお尋ねください。その方がもし、春に芽を吹く若葉の時を大樹に望まないと言われるのであれば、それはしかたのないことです。

 私は今、27歳です。もしも私が80の歳を生きることができるのであれば、その時もまた、この樹の姿を見たいと思っています。

 空に一面に広がる若葉の色を、通りすがりの道であれ、見あげていたいのです。

 この土地に手を下す事のできる数少ない所有者様へ、樹を切ることを考え直していただきたく、お願いを申し上げます。

 失礼であると承知でありますが、あえて連絡先など記載いたしません。

 ご検討のほど、よろしくお願いいたします。

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tadasi tamesue 為季忠嗣 hitoe@no-scooter.com

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